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東京地方裁判所 平成3年(ワ)12004号 判決 1992年7月28日

原告 破産者株式会社星繊維

破産管財人弁護士 松田隆次

被告 瑞晃商事株式会社

右代表者代表取締役 奥野康夫

右訴訟代理人弁護士 山下義則

主文

一  被告は、原告に対し、左記の各不動産につき、左記の各所有権移転登記の否認権行使を原因とする否認の登記手続をせよ。

別紙物件目録≪省略≫一記載の土地につき、別紙登記目録≪省略≫一記載の登記

別紙物件目録二記載の土地につき、別紙登記目録二記載の登記

別紙物件目録三記載の建物につき、別紙登記目録三記載の登記

別紙物件目録四記載の土地につき、別紙登記目録四記載の登記

別紙物件目録五記載の建物につき、別紙登記目録五記載の登記

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

主文と同旨

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  破産者株式会社星繊維(以下「破産会社」という。)は、繊維製品、衣料品の製造等を業とする会社であるが、平成三年七月二三日東京地方裁判所において破産の宣告を受け、原告はその破産管財人に選任された者である。

2  被告は、食料品、日用雑貨の輸出入、金銭の貸付及び貸借の仲介等を業とする会社である。

3  破産会社は、別紙物件目録一ないし五記載の各不動産を所有していたが、被告は、同目録一、二、四及び五記載の各不動産につき、平成三年六月六日、同目録三記載の不動産につき、同年七月三日、いずれも同年六月四日付の譲渡担保を原因とする別紙登記目録一ないし五記載の各所有権移転登記を経由した。

二  争点

1  本件譲渡担保権の設定が故意否認(破産法七二条一号)ないし危機否認(同条二号)の対象となるか。

(原告の主張)

(一) 本件譲渡担保権の設定は、破産債権者を害するものであるところ、破産会社は、破産債権者を害することを知って、本件譲渡担保権を設定した。

(二) 破産会社は、平成三年五月二七日に第一回目の、同月三一日に第二回目の手形の不渡りを出し、同年六月三日銀行取引停止処分を受けて支払を停止した。

(三) 破産会社から被告への譲渡担保による所有権移転は、破産会社が支払を停止した後に行われたものであるところ、被告は、破産会社の支払停止の事実を知って譲渡担保権の設定を受けた。

すなわち、被告は、破産会社振出の小切手一通(額面金額二〇〇〇万円)を所持し、これを平成三年五月二七日、小松川信用金庫奥戸支店に店頭呈示したが、右小切手は同日資金不足で決済されず、不渡りとなった。

(四) よって、本件譲渡担保権の設定は、破産法七二条一号ないし二号に該当し、否認されるべき行為である。

(被告の主張)

(一) 被告は、破産会社代表取締役星好夫(以下「星」という。)から懇願され、平成三年五月一五日、金六五〇〇万円の融資と引き換えに、別紙物件目録一ないし五記載の各不動産(以下「本件物件」という。)及び星所有の不動産に譲渡担保権の設定を受けた。

(二) 星は、譲渡担保の設定により破産会社の継続ができるものと信じて被告から融資を受けたものであるから、本件譲渡担保権の設定は、破産債権者を害する行為に当たらない。

また、被告は、右当時、本件譲渡担保権の設定が他の破産債権者を害することを知らなかった。

(三) 本件譲渡担保権の設定は、破産会社の支払停止以前になされたものであり、被告が破産会社の支払停止の事実を知ったのは、平成三年六月初めである。

2  権利変動の対抗要件の否認

(原告の主張)

本件譲渡担保権の設定契約が被告主張の平成三年五月一五日であるとするならば、被告は、破産会社の支払停止後本件物件の所有権移転登記を、右原因行為の効力が生じた右同日から一五日経過した後の同年六月六日ないし七月三日に、破産会社が不渡りを出したことを知ってなしたものである。

(被告の主張)

破産法七四条一項所定の一五日の期間は、権利移転の原因の日からではなく、権利移転の効果が生じた日から起算すべきであるところ、本件物件の所有権が最終確定的に被告に移転したのは、破産会社が不渡りを出した平成三年五月末日であるから、別紙物件目録一、二、四及び五記載の各不動産については、一五日の期間内に所有権移転登記がなされている。

第三当裁判所の判断

一  ≪証拠省略≫(原告作成の報告書)によれば、平成三年五月二七日破産会社は第一回目の不渡りを出して事実上倒産し、債権者によって、同年七月一六日東京地方裁判所に破産申立がなされ、同月二三日破産会社は破産宣告を受けたこと、原告は、同日、東京地方裁判所執行官に対し破産会社の本店所在地における封印執行の申立てをし、同月二九日、破産会社の本店所在地に赴いたが、既に被告が占拠しており、同所への封印執行のための立入りを拒否したため、封印執行は中止となったことが認められる。

また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫(星作成の報告書)によれば、被告は高利貸で、平成三年五月末頃には破産会社の被告からの借入金の残高は七〇〇〇万円から八〇〇〇万円に上っていたこと、星は、破産会社を倒産させると被告から執拗に責任を追及されると思い、同月二三日か二四日頃被告に行き、「もうこれ以上無理しても借金が増えるだけで会社がやっていけない。」などと述べて、本件物件及び星所有の不動産の権利証、印鑑証明書を渡し、委任状のほか被告が求めた書類に署名押印したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

被告代表者本人尋問の結果によれば、被告は貸金業等を営む会社であるところ、破産会社振出の約束手形及び小切手五通額面合計二一〇〇万円は、現在まで決済されていないこと、被告は、平成三年五月二七日破産会社振出の額面二〇〇〇万円の小切手(≪証拠省略≫)を小松川信用金庫奥戸支店に呈示したが、翌二八日残高不足であるとして支払を拒否されたこと、星とは同月二七日頃から連絡が取れなくなったことが認められる。

なお、本件譲渡担保権設定契約証書(≪証拠省略≫)の作成日付は、いづれも平成三年六月四日である。

二  右認定の事実によれば、星は、破産会社が不渡りを出した平成三年五月二七日頃には行方不明となり、被告も星と連絡が取れなかったというのであるから、本件物件の譲渡担保権設定契約は、当該証書の作成日付である同年六月四日とは認められず、星が最後に被告のところに行き、本件物件を含む星所有の不動産の権利証、印鑑証明書を渡し、委任状等被告が求めた書類に署名押印したという同月二三日ないし二四日頃に、本件譲渡担保権設定契約が成立したものと認めるのが相当である。

これに対し、連帯借用証書≪証拠省略≫の作成日付が同月一五日となっているところ、被告代表者も、その日に本件譲渡担保権設定契約をした旨供述するが、星作成の陳述書にはその点何も触れていないこと、また、被告は金融等を業とする会社であるから、金九二〇〇万円もの極めて高額の貸金の担保権設定登記を半月以上も「恩恵的に」猶予していたとは到底考えられないこと、更に、本件譲渡担保権設定契約証書の作成日付は、いずれも平成三年六月四日となっていることに照らすと、右供述は俄かに採用することはできない。

ところで、平成三年五月末頃の破産会社の被告からの借入総額は八〇〇〇万円にも上っており、星は、被告のところに最後にいったときに、「もうこれ以上無理しても借金が増えるだけで会社がやっていけない。」などと述べて、本件物件及び星所有の不動産の権利証、印鑑証明書を渡し、委任状のほか被告が求めた書類に署名押印したというのである。これは、星が破産会社の経営を継続する意思のないこと、すなわち、破産会社の倒産が必至であることを表示したものと認められ、現にその直後星は行方不明になっているのである。

右のような状況における被告との本件譲渡担保権の設定契約が、破産会社の共同担保を減少させる行為であることは明らかであり、また、星は、その行為が他の破産債権者を害することを知っていたものというべきである。そして、被告も、星の言動等から本件譲渡担保権設定契約が他の破産債権者を害することを知っていたものと推認することができる。

更にまた、破産法七二条二号にいう支払停止とは、債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうが、星が被告のところに最後に行った際の言動が支払停止を外部に表示したものと認められ、その直後の本件譲渡担保権設定契約において、被告は、右支払停止を知っていたものと認めるのが相当である。

三  以上によれば、本件譲渡担保権設定契約は、破産法七二条一号及び二号の否認の対象となるというべきである。

よって、本訴請求は理由があるから認容

(裁判官 小川浩)

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